« ハローワークの公設民営化 | トップページ | 未来を懐かしみ… »

2009/01/18

秘密の知識―巨匠も用いた知られざる技術の解明

秘密の知識―巨匠も用いた知られざる技術の解明/デイヴィッド ホックニー, David Hockney, 木下 哲夫/青幻舎

最近、フェルメールブームらしい。釣られて俺も見に行ったしな、牛乳瓶の女。あのちっちゃい絵が一点しかないのにフェルメール展って言い切るのも色々どうかと思ったけど。

で、フェルメールといえば、カメラ・オブスキュラ。要はトレスコというか写真透かしで絵を描いたってことらしい。

まあ、その辺は定説ってことで大体18世紀の話らしいが、実はもっと前のルネッサーンスの直後ぐらいからやってたんじゃね?ってのがこの本の主眼だ。

そもそもホックニーがこの本を書くきっかけになったのが、展覧会でアングルのデッサンを見たかららしい。

顔と服の書き方のタッチが違いすぎるのと、こんなに早くこんなに大量に初めて会う人の肖像が超上手く描けるってどういうこと?
モデルがビタイチ動かない石膏デッサンですら2、3日かかるでしょ?神ゆえか?

でも俺もドーバーのアングルのデッサン本を買ったときに、同じような疑問を持ったんだよな。
Ingres Portrait Drawings: 44 Works (Dover Art Library)

で、ジオットとかのルネサンス初期から写真技術の確立のあたりまでをクラシック洋画の絵を500年分ぐらいカラーコピーして、年代順にべたべた壁に貼っていったら、どう考えてもテクノロジーの発展が年代ごとの画風の変遷にマッチしてるような気がしたらしい。新技術が出ると画風が一気に変わっとるやないかーい。

まとめて言うと、カラバッジオやファン・アイクやベラスケスはフォトショッパーだった、って感じ?
「リコンフィギュアード・アイ―デジタル画像による視覚文化の変容」読後感みたいな感じを受けまくり。

読後にアングルの画集とか見ると、これって絵画的デフォルマシオンっていうよりかは合成写真の継ぎ目じゃん、って感じが確かにする。そら、人体の中身を解剖学的に理解なんかしてるわけない罠。ダビンチならともかく。

なんというかクラシックな洋画の神がかった技巧に対するコンプレックスみたいなものがとても和らぐ感じがするのだった。
音楽で言うとプロトゥールズでアイドルの歌が突然上手くなったみたいなもんかな。

かといって、フォトショップだのぺインターだのレタスだのコミックスタジオだのの道具がよければ絵がよくなるのかというと、それはやっぱり別の話なわけで、その辺はホックニーも再三言っている。ホルバインのマチエールのテクニックや画面の構成力は、凡百の工房画家と全く才能の次元が異なるというのは見ればわかる。

あくまで、全体の正確なプロポーションとコントラストの階調を素早く掴み、下絵としての拡大縮小の複製や合成を素早く作成するための補助具として有益だ、ぐらいなものなんだろう。

でも、やっぱりトレスコなんじゃん、人の子じゃん、ってところで安心はする。

それに、職業画家の需要って肖像画の占める割合って大きかった時代だったんだし、最新のテクノロジーでクライアント受けのよいモノを作り出すことが悪いことなわけないし。

そんなわけで、アートとテクノロジーの関連ということについて色々考えさせられる。大昔から同じって言えば同じな訳だ。

そして、光学的な画像を定着するのが画家という人力でなく科学的に印画紙への定着ということが可能になった時点で、この「秘密の知識」は歴史から消えてしまう。今のデジタル・アーカイブだって環境の変化次第でそうならないとは限らない。

つか、なってるよね。アナログ機材が無くなった時点で、アナログマスタリング技術が消滅したようなもんで。

まあ、こうした技術が十年一日の決まりきった様式から抜け出すきっかけにもなったんだろうし、こういう「写真みたいに上手い」絵が存在したからこそ、写真が世間的に受け入れられたんじゃないかという気もする。こういう様式があって次の新技術が速やかに受容されたんだろうなって思うわ。てゆうか、この本もカラーコピーという新技術なくして生まれなかったってホックニーも言ってるし。

(今の目で見ると)ジオットのようなマンガというか南画みたいな絵ばっかりだったら、はたして写真や映画というテクノロジーは速やかに受容されたんだろうか。

メディアとしてのコンピューターってばあまり前例がなかったから、受容に時間がかかったっていうか、今でも思い切り受容に時間がかかってるよな。

ということで、一万円と高額な書籍ですが、日本版が出てること自体凄いことだし、とても興味深く読み返しまくりで後悔はしていない。

しかし、こういうのはタッシェンが2500円ぐらいでゴリゴリ出すべき本じゃないのかって気もするけどね。

久しぶりに長文。どーもでした。

|

« ハローワークの公設民営化 | トップページ | 未来を懐かしみ… »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/68399/43782216

この記事へのトラックバック一覧です: 秘密の知識―巨匠も用いた知られざる技術の解明:

« ハローワークの公設民営化 | トップページ | 未来を懐かしみ… »